VUCAの時代と言われ、旧来のトップダウンによるピラミッド型の組織・指揮命令系統から、現場が環境の変化に対して迅速に判断を行って、アジャイルに軌道修正を図っていく経営スタイルの必要性が言われています。
これを実現して組織が成功し続けるには、「目的に向けて効果的に行動するために、手段としての意識と能力を、継続的に高め、伸ばし続ける組織」が必要であり、それを「学習する組織」とピーター・センゲらが呼んで書籍にまとめています。この書籍を日本人にわかりやすく基礎部分に絞って解説したのが本書です(小田理一郎著、英治出版)
この記事では前編に続き、入門書と自称しながらも400ページに及ぶ本書のエッセンスを紹介します。
実践上の課題と対策
これらの能力を使って学習する組織の実践を行っていく訳ですが、その際に発生する典型的ないくつかの課題と対策について触れています。
初期に発生する課題は、1)時間の不足、2)支援の不足、3)自身の関与への逡巡、4)言行不一致、です。活動を始めてしばらくすると、やることが増えて時間が足りない、スポンサー的な立場の人が多忙でで中々関与してくれない、自分自身もこの活動に注力して良いのかの迷いがでる、そしてあまり変革に積極的でない役員等から疑義的な発言が聞こえて来たりすることで、この活動に対するマネジメントの言行不一致、といったモヤモヤがでてくるわけです。
そして初期の段階を過ぎて、実際に学習する組織の推進を組織全体に広めていこうという展開期になると、以下に多様な組織の人たちを巻き込んでいくかという課題に直面します。5)恐れと不安、6)評価体系の見直し、7)改革者対部外者、といったものです。これまでと違った行動を求められ、対応できるかという不安が発生します。そして改革を進める中ではいったん悪い結果がでてから好転することがありますが、そういった道筋も見据えて適切な評価体系を設定しないと、改革が頓挫しかねません。また変革を進めるメンバーと、組織の中の大半の人たち(部外者)が対立してしまうことがあります。
これらの課題に対して対応する際に共通して求められるのは、学習する組織としての内省です。例えば部外者との対立という課題でいえば、「自分たちが正義だと思って傲慢になっていないか」といった、知らず知らずのうちにできてしまうメンタル・モデルを見直して、どう解決していくかを考えるというものです。
このパートの最後は、8)普及・浸透、という課題です。新しい理論を取り入れていくにあたって、うまく行かないとすぐに諦める、自分たちにはフィットしていないと一蹴する、手法にこだわって本質を見失う等々の阻害要因が発生します。これに対して広く浸透させるために必要なのは学習インフラだと言います。単発の研修や、各部門に展開を任せているだけでは、普及・浸透を期待することはできません。
学習インフラの基礎として、研修制度を持っている会社は多いと思いますが、その中での基礎的な工夫として、経営ロールプレイ的な研修や、実課題をもとにして実践してみるトレーニングなどは有効です。具体的に腹落ち感、気づきを得て、行動変容につながるようなトレーニングが必要だということです。また、それに加えて、新しいことを実践するにあたって情報交換などを行う実践コミュニティや、部門間や人の間をつないで浸透度をあげるリーダーの存在などを持つことが、組織全体に気運を広げるのに必要な対策となります。
また「学習する組織」に向かって変革が進んでいるかどうかを評価する仕組みも重要です。学習する組織を推進するセッションの最初・最後にチェックイン・チェックアウトを行って、実際に参加者がどの様な状況にあるかを確認するのが良いでしょう。より構造的に状況を把握するにはエンゲージメントサーベイを行うのも有効だと考えられます。
組織とリーダーシップの未来
最終章では、学習する組織化が進んでいった成熟期の組織が迎える2つの課題と、新たなリーダーシップの形について書かれています。
成熟期の組織の課題とは、9)組織統治、10)組織の目的です。統治については、時代の環境変化が激しいこと、学習する組織はダブル・ループ学習を通じて、それらの変化に適応していくことができることから、中央集権型ではなく分散型の組織が適していると考えられます。しかし中央集権に慣れたマネジメントが、分散統治に抵抗します。この課題に対しては、分散統治に適応する能力開発をするのと同時に、うまくバランスを取った統治の姿を調整していくということが必要になるということです。
組織の目的の部分で言われていることは学習する組織に限ったことではありませんが、有能な人が賛同し、献身・エンゲージしようと思える目的を持つ企業に集まる傾向は、今後強まってくるだろうと考えられます。利益の最大化といった株主利益に偏らない、コミュニティの一員としての目的を持つことが必要になります。
リーダーシップについては、課題に対してすぐに解決策を考えるのではなく、深く掘り下げて内省を進めるUプロセス、多くの関係者(マルチステークホルダー)が絡む複雑性が高い課題に取り組むコミュニティ・オーガナイザー(ステークホルダーが自己組織的な行動を取るように促す)という活動の仕方が求められます。
これからのリーダーシップに必要なのは、本書で紹介している5つの能力を取得して、リーダーシップをスキルとしてではなく、姿勢・立ち位置として、人のあり方として実践できるという、「道」の領域だということで本書は締めくくられています。
まとめ
入門書と言いながらかなりのボリューム・コンテンツを揃えている本書ですが、事例も豊富で、日本人のメンタリティでも理解しやすく書かれていると思います。組織開発でひとつの目指す姿として取り組む際に、非常に参考になるでしょう。
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